シャドーイングは通訳のトレーニング方法として長年支持されてきており、今まで様々な論文の中で、その効果が検証されてきた英語学習方法です。
今回は、そんなシャドーイングの効果を実証した論文の内容を引用しながら解説します。
- シャドーイングの効果
- シャドーイングの注意点
- シャドーイングに関する疑問解消
過去の研究・調査から、シャドーイングの効果や適切な実施方法を紐解きます。みなさんの学習に役立てていただければ幸いです。
シャドーイングとは?
シャドーイングは本来「会議通訳者」育成のための基礎訓練の一つとして用いられてきました。
シャドーイングとは、「聞こえてくるスピーチに対してほぼ同時に、あるいは一定の間をおいて、そのスピーチと同じ発話を口頭で再生する行為、またはリスニング訓練法」を指します。
英語音声でシャドーイングをする場合は、英語の音声を聞きながら、流れてくる音声を真似て音声を口に出していきます。
2000年以降、シャドーイングの効果を実証する研究が日本でも盛んに行われており、現在では英語学習、特にリスニング力の向上に対して導入されているケースが見受けられます。
論文から紐解くシャドーイングの効果
リスニングのトレーニングとしてシャドーイングを勧めている英語教育者は多いです。しかし、シャドーイングは何に対して、どの程度の効果がある学習方法なのでしょうか?
シャドーイングの結果として効果が実証、あるいは、示唆されているものは以下の通りです。
- プロソディー感覚の養成
- リスニング力強化
- スピーキング力強化
- リーディング速度の向上
- ワーキングメモリの強化
ここでは、複数の研究結果を引用しながら、シャドーイングの効果について解説していきたいと思います。
プロソディー感覚の養成
学習者の発音に注目した研究には,荻原(2005,2007),髙橋・松崎(2007),戸田(2008,2009),唐沢(2010)などがあり,シャドーイングが分節音の発音やアクセントなどのプロソディーの教育に効果があるという報告がなされている。
成蹊大学国際教育センター 世良 時子 (2013)プロソディーの学習法としてのシャドーイング
―発話の自然さに及ぼす効果についての一考察
プロソディー感覚とは「言葉の抑揚や音の高さ、リズム、強弱、速さなど、文字では表せない言葉の構成要素」を指します。
日本語と英語はプロソディーが全く異なる言語です。英語のプロソディー感覚を養うことで、より英語らしい英語を話せるようになり、ネイティブにも意味が伝わりやすくなります。
リスニング力強化
シャドーイングを英語学習に取り入れている方の主目的は、リスニング力の強化にあるでしょう。シャドーイングが英語のリスニング力向上に効果があるとする研究・実験は複数あります。
シャドーイング活動後のリスニングテストの平均点数は、活動前のリスニングテストの平均点数よりも有意に高いことがわかった。
石巻専修大学 大縄道子 (2018) 外国語教授法としてのシャドーイング活動の効果
――リスニング力、英文復唱力、プロソディの観点から
上記の実験では、17名の学生を対象に週1回40分のシャドーイングを13回実施。その前後で30点満点のリスニングテストの成績がどのように変化したかを調査したものです。
平均点 | 最高点 | 最低点 | |
---|---|---|---|
事前テスト | 14.47 | 21 | 7 |
事後テスト | 16.47 | 28 | 9 |
上記のように、平均点、最高点、最低点ともにシャドーイングのトレーニング後に伸びています。
また、91名の学生を対象に、約7ヶ月間・週2回のシャドーイングを実施した観察研究でも、以下のような効果が主張されています。
シャドーイングトレーニングが、聴解力テストにおいて、高得点を取得する学生数を増やすということを示唆している。
宮城学院女子大学 小島さつき・太田聡一(2010) 学生の英語聴解能力におけるシャドーイングトレーニングの効果に関する実証的研究
スピーキング力強化
スピーキング力に関しては、「日本語を英語に変換する速度」に変化は見られないものの、より流暢な英語を発話できるようになる可能性が示唆されています。
構音速度が速くなることはfluencyの発達をみる尺度のひとつと考えられており、シャドーイングがfluencyをつける上で何らかの働きをする可能性が示唆されたといえる。
東京工業高等専門学校 堀智子 英語発音指導としてのシャドーイングの効果について
上記は17人に対して1ヶ月間(合計7時間)のシャドーイングトレーニングを実施。事前、事後、1ヶ月後に3回の音読のテストを行い、シャドーイングが発音に与える効果を検証しました。
上記の実験では、構音スピード(話す速度)が向上し、抑揚にも改善が見られました。つまり、シャドーイングは英語の発音や発話スピードを改善するためにも効果的と言えます。
リーディングの速度向上
1分間で1パラグラフ・プラス 0.3 パラグラフ余計に読めるようになった。つまり、とりあえず以前よりも速く音読(音韻化)することができるようになったということが言えます。
神戸市外国語大学 玉井健(2002) リスニング力向上におけるシャドーイングの効果について
神戸市外国語大学の研究でも、シャドーイングによって「構音速度」が向上するという結果が出ています。
文章を読むときは、自然と頭の中で文字情報を音にして解釈していますから、シャドーイングによって構音速度が上がることによって、英語を話す速度が向上するとともに、読む速度も速くなると結論づけることができます。
ワーキングメモリの強化
シャドーイングが最終的にリスニング効果をもたらすとすれば、これは作動記憶機能、つまりワーキングメモリの機能をより効果的に使う技術を作り上げている、あるいは活性化する
神戸市外国語大学 玉井健(2002) リスニング力向上におけるシャドーイングの効果について
作業をするときに短期的に記憶をとどめておく領域を「ワーキングメモリ」(作業記憶機能)といいます。シャドーイングは、このワークングメモリに一時的に聞こえてきた音声を保存し、口頭で再生するということを連続的に行うトレーニング方法です。
ワーキングメモリは、作業の能率などに深く関わる能力なので、鍛えておいて損はありません。シャドーイングはワーキングメモリの強化にたいしても効果があると示唆されています。
論文から紐解くシャドーイングの注意点
ここまで、複数の研究結果からシャドーイングがもたらす効果を見てきました。しかし、実験によって効果が実証されているとはいえ、研究によって結果には変動があります。
学習方法の研究に関しては、標本数が少ないものも多いですし、以下のような数値化が難しい変数が関わるため、物理学や化学のように一定の結果が得られるわけではない点に注意しましょう。
- 学習者の英語に対する学習意欲
- 教育者のスキル
- 教材のレベル・内容
同じような内容の研究でも異なる結果が出ることがあります。ここからは、シャドーイングの注意点について複数の研究結果をもとに紹介していきます。
学習意欲やレベルによって行うべき方法が異なる
結果は,意欲のある生徒は,未知の教材で,あまり英語に気持ちが向かない生徒には,既知の教材でシャドーイングを行うと聴解力が向上したというものであった。
東京都立桐ヶ丘高等学校 鈴木 久実(2007)シャドーイングを用いた英語聴解力向上の指導についての検証
上記の研究では、成績上位者、中位者、下位者に学生を分類し、スクリプト内容がわかっていない「未知のシャドーイング」と、スクリプトの単語と読解を実施してから行う「既知のシャドーイング」が、それぞれの群でどのような効果をもたらすかを実験しています。
成績上位者に関しては、未知のシャドーイングで成績が伸びており、成績中位者・下位者は既知のシャドーイングで成績が伸びるものの、未知のシャドーイングでは効果が見られないとしています。
このことから、英語のレベルによって実施すべきシャドーイングの手順は異なる可能性があると言えます。
スクリプトを先に読むと意味ないかも
The post-shadowing group alone improved their listening comprehension skills with statistically significant differences.
(ポストシャドーイング群のみにおいて、リスニング能力の統計的に優位な向上が見られた)
秋田大学 濱田陽 The effectiveness of pre- and post-shadowing in improving listening comprehension skills
秋田大学の調査では、シャドーイングの方法による効果の違いについて研究を実施しました。
実験の内容は、学生を語彙やスクリプトの内容を学習してからシャドーイングを実施する「プレシャドーイング」群と、シャドーイングをしてからスクリプトの内容や新しい単語を学習する「ポストシャドーイング」群に分けて、事前・事後にリスニングテストをするというものです。
結果としては、ポストシャドーイング群のリスニング成績は向上しましたが、プレシャドーイング群のリスニングの成績に向上は見られませんでした。
このことから、リスニング力を上げたいのであれば、シャドーイングを先に実施し、スクリプト内容の学習はシャドーイング後にやるべきと言えそうです。
シャドーイングの技術は時間に比例して向上するわけではない
技術的、運動的なリスニング訓練としてのシャドーイングの効果は、知識面に働きかける場合と異なり、一定のレベルまでは割合早い伸長が期待できるが、それ以降は鈍化する傾向がある
神戸市外国語大学 玉井健(2002) リスニング力向上におけるシャドーイングの効果について
耳で聞いた音声を口頭で再生する技術に関しては、早い段階で技術が向上するが、その後時間経過に比例してさらに上手くなるわけではないということが示唆されています。
もちろん、私達はシャドーイングがうまくなりたいというわけではないので、あまり影響はないかもしれませんが。
それよりも注目すべきは「技術的、運動的なリスニング訓練としてのシャドーイングの効果は、一定のレベルまでは割合早い伸長が期待できる」という点でしょう。
つまり短期集中で取り組めば、少なくとも「聞いた音声を正確に復唱する技術」は早い段階で身に付くということです。
聞き取った音声から意味を理解して設問に答えられるかというのは、また別の話ですが「正確に聞き取る」ということだけであれば、実験と同様の期間(5日間、1回2時間)のシャドーイングである程度身に付くかもしれません。
日本語を英語に変換するスピードに変化は見られない
聖学院大学では、シャドーイングが英語の流暢さにどのように影響を与えるかを調査しています。(参考:聖学院大学 村岡有香 シャドーイングとL2流暢さの向上へ効果 (2018))
この研究では、以下の指標を英語スピーチの内容を以下の指標で測ることで、シャドーイングが英語の流暢さにどのような影響を与えるのかを調査しています。
- 発話速度:話す速さ
- 発話の長さ:話し始めてから話が途切れるまでの時間
- ポーズの長さ:話しが途切れてから再び話し始めるまでの時間
この研究によると、シャドーイングによって「発話速度」「発話の長さ」には向上が見られたが、「ポーズ」の長さは変わらないことが実証されています。
上記のことから、思いついたメッセージをどのような言語を使って表現するか考えるプロセスにおいて顕著な変化がなかったと言えます。
シャドーイングはいわゆる「英語脳」を作るようなものではなく、あくまでも発話や流暢さを向上させるトレーニングであると言えそうです。
シャドーイングに関する疑問を論文で解消
効果を得られるまでの期間はどのくらい?
実験期間は研究によって様々です、長いものだと数年間の観察研究から短いものだと5日間程度の短期集中のものまであります。いずれの研究においてもシャドーイングの効果は認められているため、英語の聴解力をUPしたい方は、正しいやり方を確認して今日からでも取り組んでみてはいかがでしょうか?
効果的なやり方は?
研究から示唆されているのは以下の2点です。
- 自分のレベルに応じた教材を選ぶこと
- シャドーイングをしてからスクリプト内容の学習をすること
シャドーイングにおいて重要なことは、集中力を保つこととされています。
教室で音声指導をする場合は,生徒のattention が向くようにしなければ,どのような処置をしても,成果が上がらない
東京都立桐ヶ丘高等学校 鈴木 久実(2007)シャドーイングを用いた英語聴解力向上の指導についての検証
上記の調査では、成績中位者・下位者は未知のシャドーイングは難解でattentionが保てないため、未知のシャドーイングでは有意な効果が得られなかったとしています。つまり、難しすぎず、集中力が保てるような教材を選ぶべきであると言えます。
また、秋田大学の調査では、シャドーイングをしてからスクリプトの内容や新しい単語を学習する「ポストシャドーイング」群においてのみリスニングテストの成績向上が見られているため、正しい手順で行うことが大切です。
どんな人におすすめ?
シャドーイングは以下のようなスキルの向上に効果があるという結果が多く見られます。
- リスニング力
- 英語の発話・流暢さ
- リーディングのスピード
これらのスキルを強化したい方はシャドーイングトレーニングを学習に組み入れるとよいでしょう。
参考にした論文・レポート
最後に、今回の記事を書くにあたって参考にした論文・レポートのリンクをまとめます。興味がある方は読んでみても面白いかもしれません。
団体 | 著者 | 年数 | テーマ | リンク |
---|---|---|---|---|
東京都立桐ヶ丘高等学校 | 鈴木久実 | 2007年 | シャドーイングを用いた英語聴解力向上の指導についての検証 | リンク(外部ページへ) |
神戸市外国語大学 | 玉井健 | 2002年 | リスニング力向上におけるシャドーイングの効果について | リンク(外部ページへ) |
聖学院大学 | 村岡有香 | 2018年 | シャドーイングとL2流暢さの向上へ効果 | リンク(外部ページへ) |
秋田大学 | 濱田陽 | 2014年 | The effectiveness of pre- and post-shadowing in improving listening comprehension skills | リンク(外部ページへ) |
東京工業専門高等学校 | 堀智子 | 2008年 | 発音指導としてのシャドーイングの効果について | リンク(外部ページへ) |
宮城大学 | 小島さつき 太田聡一 | 2010年 | 学生の英語聴解能力におけるシャドーイングトレーニングの効果に関する実証的研究 | リンク(外部ページへ) |
石巻専修大学 | 大縄道子 | 2018年 | 外国語教授法としてのシャドーイング活動の効果 | リンク(外部ページへ) |
成蹊大学国際教育センター | 世良時子 | 2013 | プロソディーの学習法としてのシャドーイング | リンク(外部ページへ) |
神戸松蔭女子学院短期大学 | 玉井健 | 1997年 | シャドーイングの効果と聴解プロセスにおける位置づけ | リンク(外部ページへ) |
シャドーイングの効果 まとめ
今回は複数の研究をもとに、シャドーイングの効果について紹介しました。研究で効果があると実証、または、示唆されているのは以下の英語スキルの向上です。
- リスニング能力
- 発話スピード・流暢さ
- リーディング速度
また、効果を得るために重要なことは以下の2点です。
- 集中力を保つ→そのために自分のレベルに合った教材を選ぶ
- シャドーイングをしたあとにスクリプト内容の学習をする
シャドーイングだけを単体でやっても英語を扱う能力が向上するわけではありませんが、「音声を正確に聞き取る」能力を養うためにはかなり有効なトレーニングです。
英語を学んでいる方はぜひ学習に取り入れてみてください。
とはいえ、シャドーイングは難易度が高い学習方法でもあります。うまくできないという方は、以下の記事も参考にして、コツコツ継続していきましょう!