シャドーイングは英語の上達に対して高い効果があるトレーニング方法として、長年通訳者のトレーニングとして用いられてきました。
現在は一般の英語学習者の間でも、主にリスニング力強化を目的として取り入れられています。
今回は、英語上達のために積極的に活用したいトレーニング方法「シャドーイング」について解説します。
- シャドーイングの効果的なやり方
- シャドーイングで養えるスキル・養えないスキル
- シャドーイングをやるときのポイント
シャドーイングの効果については以下の記事で9つの研究をもとに解説しています。併せて参考にしてください。
シャドーイングとは?
シャドーイングとは、「聞こえてくる音声に対してほぼ同時に、あるいは一定の間をおいて、その音声と同じ発話を口頭で再生する行為」を指します。
シャドーイングは本来「会議通訳者」育成のための基礎訓練の一つとして用いられてきました。
英語学習には従来、英語の音声を聞きおえてから繰り返す「リピーティング」が用いられてきましたが、シャドーイングは音声を「聴く」ことと、音声を「発話」することを同時に行う点でリピーティングとは異なります。
シャドーイングのやり方には複数の方法があり、それぞれ名前が付いていますが、大きく2つに大別できます。それが、「トップダウン・シャドーイング」と「ボトムアップ・シャドーイング」です。
トップダウン・シャドーイング
トップダウン・シャドーイングは、シャドーイングを実施する前に他のアプローチでスクリプト内容について理解し、最後の仕上げとしてシャドーイングを実施する学習方法を指します。
- リスニング
- スクリプトを見ながらシャドーイング
- 音読・単語などの確認
- スクリプトを見ながらシャドーイング
- シャドーイング
上記の合間にリピーティングやオーバーラッピングなどを入れてもOKです。要は、スクリプトの内容をシャドーイング以外のアプローチで理解しきってからシャドーイングを実施するのが、「トップダウン・シャドーイング」です。
最初に単語や文法、スクリプト内容を理解してから行うため、単語や文法の知識を習得しやすいというメリットがあります。
ボトムアップ・シャドーイング
ボトムアップ・シャドーイングは初見の教材に対して、最初にシャドーイングを実施し、その後にスクリプト内容の理解を実施する方法です。
- シャドーイング
- スクリプトを見ながらシャドーイング
- 音読・単語の確認
- テキストを見ながらシャドーイング
この方法は、未知な内容について先にシャドーイングを実施するため、英語の音に対する集中力を高めることができると言われています。
効果的なシャドーイングのやり方
秋田大学の調査では、コンテンツ内容を先に学習してからシャドーイングを行った場合、リスニング能力の向上に効果が見られなかったという結果が出ています。(参考リンク)
そのため、リスニング力強化のトレーニングとしてシャドーングを実施する場合は、ボトムアップ・シャドーイングをベースにすることがよいでしょう。
- 自分のレベルに合った教材を選ぶ
- シャドーイング(1回〜3回程度)
- スクリプトを確認する
- 音声に合わせて音読
- シャドーイング(1回〜3回)
自分のレベルに合った教材を選ぶ
シャドーイングで最も重要なポイントは「教材選び」と言っても過言ではありません。
英語の成績別にシャドーイングの効果を検証した実験では、成績中位・下位のグループが英語音声への集中力を保てなかったために、シャドーイングの効果が限定的であったという結果が出ています。(参考リンク)
このことから、教材の難易度が自分のレベルに対して高い場合、シャドーイングの効果が十分に得られない可能性が高いです。
シャドーイングの教材を選ぶ時は、難易度が高すぎない、自分のレベルに合ったものをえらびましょう。
目安としては、スクリプトを読んだときに、ある程度スラスラ読めるレベルの教材を選ぶのがオススメです。
シャドーイング(1回〜3回)
まずはシャドーイングをしましょう。
最初から一言一句正確に聞き取って発話するのは難易度が高いので、1回目は聴くだけでもよいです。
問題なく聞き取って復唱できる箇所と、意味はわかるものの復唱が難しい箇所と、聞き取れない箇所が明確になるまで繰り返しましょう。
このときに自分の音声を録音しておくと、客観的に自分の苦手な箇所がわかるので、復習に役立ちます。
スクリプトを確認する
シャドーイングをある程度繰り返したら、スクリプトを確認しましょう。初見の単語や文意がわからない箇所があれば意味を確認します。
音声に合わせて音読
次に、音声に合わせて音読します。このときに、視覚情報に引っ張られて「自己流の発音」にならないように注意しましょう。
あくまでもスクリプトは補助として扱い、音声に集中して発音することがポイントです。
何も見ないでシャドーイング(1回〜3回)
最後に何も見ないでシャドーイングを繰り返します。すべての音声を正確に復唱できるまで繰り返しましょう。
もし、すべてを正確に復唱するのが難しい場合は、教材のレベルが高すぎる可能性もあります。少しレベルを落としてもよいかもしれません。
シャドーイングの期待できる効果
シャドーイングによって期待できる効果は主に3つです。
- リスニング力の向上
- 発話速度・流暢さの向上
- リーディング速度の向上
上記の3つは研究でも効果が実証されています。詳しくは以下の記事でも紹介していますので、併せて参考にしてください。
リスニング力の向上
シャドーイングは「聞いた音声を正確に復唱する」トレーニングです。つまり、シャドーイングをするためには、音声を正確に聞き取ることが必要になります。
「聞こえてきた音声を正確に聴き取れる」ことと、「聞こえてきた音声の意味を理解できる」ことの間には多少の隔たりがありますが、まずは聴き取れることが重要なことは言うまでもありませんね。
発話速度・流暢さの向上
シャドーイングの効果と考えられる要素に「プロソディー感覚の養成」が挙げられます。
プロソディー感覚とは、「言葉の抑揚や音の高さ、リズム、強弱、速さなど、文字では表せない言葉の構成要素」のことです。
また、複数の調査・研究で「発話スピードの向上」が顕著に見られました。
上記のことから、シャドーイング によって、英語をより英語らしく話すことができるようになると言えます。
ただし、文章を頭の中で組み立ててから話し始めるまでの思考プロセスには影響を与えないという調査結果があるため、スピーキング力全体の向上には、瞬間英作文など他のトレーングも必要と考えられます。(参考リンク)
リーディング速度の向上
日本語でもそうですが、私達は文章を読むときに文字を頭の中で音声化して意味を理解していくという処理を行っています。
シャドーイングによって発話スピードが上がることは前述しましたが、それによって、英文を読むスピードも速くなることが調査によって実証されています。(参考リンク)
ただし、意味を理解しているかどうかはまた別の問題なので、シャドーイングによってリーディングのスキルが全体的に向上するわけではない点は注意してください。
シャドーイングでは養えないスキル
ここまで見てきたようにシャドーイングは効果的な英語学習方法ではあるものの、すべての技能が向上するわけではありません。
シャドーイングを行っても効果があまり期待できない技能は以下の3つです。
- 語彙力
- 英文読解スキル
- 英作文スキル
上記のスキルを身に付ける、または、上達させたい場合は、他のアプローチも必要となることは理解しておきましょう。
語彙力
前述のとおり、シャドーイングの教材選びでは、スクリプト内容をすんなり理解できるレベルのものを選ぶことが重要です。
スクリプト内容が理解可能ということは、未知語の出現率が低いということです。
逆に、語彙力の強化を目的として、未知語が多く含まれる教材を選ぶとシャドーイングの本来の目的である「 リスニング力の強化」の効果が薄くなってしまうと考えられます。
英文読解スキル
シャドーイングを聞こえてくる音を正確に復唱する技術です。そのため難解な文章の読解には語彙や文法など他の学習が必要でしょう。
英文読解のスキルは、難易度の高い英文を精読することで向上していきますので、シャドーイングで効果を期待することはできません。
難解なスクリプトの教材を選んでしまうと、シャドーイングの効果が薄れてしまうので注意が必要です。
英作文スキル
英語の音声を正確に聞き取ることと、英語の文章を頭の中で組み立てることの間に特に相関はないと考えられます。
実際に、聖学院大学で実施された調査では、シャドーイングを数年間実施しても、思いついたメッセージをどのような言語を使って表現するか考えるプロセスにおいて顕著な変化がなかったという結果が出ています。
英作文のスキルを伸ばしたいのであれば、英作文の学習をすべきと言えるでしょう。
シャドーイングはこんな人にオススメ
- 中学レベルの文法・単語の知識がある人
- リスニング力を強化したい人
- 発音や発話スピードを改善したい人
- リーディングの速度を上げたい人
必要最低限の英語知識を持っていなければ、シャドーイングをしてもあまり効果は得られないでしょう。聞こえてくる音声を正確に復唱する技術は得られるかもしれませんが、音声を聞いて意味を理解するためには文法・単語の知識が欠かせません。
また、負荷が高すぎるトレーニングでは集中が続かずに効果を得られないことも考えられるため、英語初心者の方は文法・単語・音読などから学習をしてみましょう。
シャドーイングがリスニング力強化に効果的なのは多くの研究結果が支持しています。
また、「発話速度の向上」や「イントネーションの改善」などにも効果があると言う研究が複数あるため、より流暢な英語を話すためのトレーニングとしても活用できます。
また、前述のとおり、「発話スピードの向上」は「リーディング速度の向上」に繋がります。
上記の効果を得たい方に対して、シャドーイングはオススメできる学習方法です。
シャドーイングをするときのポイント
次に、シャドーイングするときのポイントについて見ていきましょう。
- 自分のレベルに合った教材を使う
- 音声に集中する
- しっかりと発声する
- 自分の声を録音して聞く
- 聞き取れなかった箇所は必ず確認する
自分のレベルに合った教材を使う
シャドーイングを学習に取り入れる際に、最も難しいのが「教材選び」です。
教材は簡単すぎても難しすぎても効果が薄れてしまいます。自分に合った教材を選ぶようにしましょう。
目安としてはスクリプトをある程度苦労なく読んで理解できるレベルの教材を選ぶことが大切です。
英語音声の速度に関しては、再生速度を調整できるツールなどもあるので、必要に応じて利用してもよいでしょう。
自分に合った教材が1つ見つかったら、内容を覚えてしまうくらい、繰り返しやりこみましょう!
以下の記事でレベル別にシャドーイングのオススメ教材を紹介しているので、シャドーイングを英語学習に取り入れたい方は参考にしてください。
音声に集中する
シャドーイングを効果的にするために重要なのが、音声に集中することです。
教室で音声指導をする場合は,生徒のattention が向くようにしなければ,どのような処置をしても,成果が上がらない
東京都立桐ヶ丘高等学校 鈴木 久実(2007)シャドーイングを用いた英語聴解力向上の指導についての検証
上記の研究では、生徒の集中力が散漫な状態では、どのようなシャドーイング方法を教授しても効果が上がらなかったことが伺えます。
シャドーイングは負荷が高い学習方法なので、最初は大変かもしれませんが、集中して行うように意識しましょう。
しっかりと発声する
最初から完璧を目指す必要はありませんが、はっきりと口に出してシャドーイングをするようにしましょう。はっきりと発音することで苦手な口の動きや発声がわかってきます。
伝わるような発音を習得するためには、普通に話すときと同様の音量で声に出して練習する必要があります。
自分の声を録音して聞く
正確に発声できているかを確認するには、自分のシャドーイングを録音しておいて後から聞き返すのが確実です。シャドーイング中は英語の音声に集中していますから、正しく発声できていたつもりであっても、聞き返すと不明瞭な場合も多いです。
自分の声を自分で聞き返すのは抵抗がある方も多いとは思いますが、客観的に自分の苦手な箇所が把握できるので、学習効率が大幅にUPします。
聞き取れなかった箇所は必ず確認する
聞き取れない音声には聞き取れない理由があります。
- そもそも知らない単語
- 知っているが発音を正確に把握していない単語
- 発音も意味も知っているがリエゾンやリンキングにうよって聞き取れないフレーズ
聞き取れなかった箇所を「なぜ聞き取れなかったのか」必ず確認しましょう。
特に3つ目に挙げた英語の音声変化は聴き取れるようになるまで、繰り返し練習して慣れる必要があります。
シャドーイングのやり方 まとめ
今回は効果的なシャドーイングのやり方について紹介しました。ここで内容をおさらいしましょう。
【要点】
リスニング力強化に効果があるのは「ボトムアップ・シャドーイング」
おすすめのボトムアップ・シャドーイングの手順は以下の通りです。
- 自分のレベルに合った教材を選ぶ
- シャドーイング(1回〜3回程度)
- スクリプトを確認する
- 音声に合わせて音読
- シャドーイング(1回〜3回)
シャドーイングによって鍛えられるスキルは以下の3つです。
- リスニング力
- 発話スピード・流暢さ
- リーディング速度
一方で、語彙力、英文読解スキル、英作文スキルを鍛えるためには他の学習アプローチが必要です。
シャドーイングは負荷が高いトレーニングなので、挫折してしまう方も多いのですが、自分に合った教材をみつけて、楽しみながら続けられるといいですね!
正しく実践すれば、英語を聞いて理解する力は間違いなく上がるので、興味がある方は始めてみてはいかがでしょうか?
「うまくできなくて挫折してしまいそう…」という方は、以下の記事も参考にしていただけると幸いです。